はじめに
薄毛は男性の病気。そう思われていた時代もありましたが、今では女性の薄毛もクリニックで治療するようになってきています。
そこで今回は女性の薄毛である、FAGA(女性男性型脱毛症)について詳しく解説していきたいと思います。
FAGA(女性男性型脱毛症)とは
FAGA(女性男性型脱毛症)とは、Female Androgenetic Alopeciaの略で、女性に多く見られる脱毛症の一種です。その症状の特徴は頭頂部や分け目の毛髪が薄くなることです。加齢やホルモンバランスの乱れ、遺伝的要因、生活習慣などが原因として挙げられます。FAGAは、進行すると全体的に薄毛になる場合もあり、多くの女性にとって深刻な悩みとなっています。
FAGAの原因とメカニズム
①毛周期(ヘアサイクル)の乱れ
FAGAは、毛髪の成長サイクル(毛周期・ヘアサイクル)が乱れることで起こります。毛髪は、成長期、退行期、休止期の3つのサイクルを繰り返しており、成長期には毛髪が活発に成長し、退行期には成長が止まり、休止期には毛髪が抜け落ちます。FAGAでは、健康な人では2~6年ある成長期の期間が短縮され、健康な人では3~5ヶある休止期の期間が長くなることで、毛髪の密度が低下し、薄毛が目立つようになります。とくに女性は毛周期の成長期を延長させる作用のあるエストロゲンの分泌が産後や更年期などに低下するので、毛周期が乱れてしまいます。
②一本毛化(毛包数の減少)
また、正常な毛だと、1本の毛穴(毛包)から複数の毛髪(通常2〜4本)が生えており、主毛包(一次毛包)と副毛包(二次毛包)という2種類の毛が出ています。
しかし、FAGAの方の髪では主毛包(一次毛包)のみが生えている状態になって、副毛包(二次毛包)が生えなくなり、一つの毛穴から髪の毛が1本しか生えなくなってしまいます。これを一本毛化と言います。1本毛化が進むと頭皮の透け感が増したり、髪のボリューム感がなくなってしまいます。
③毛母細胞の活性低下
毛母細胞は毛髪を形成する細胞です。FAGAが進行すると、毛母細胞の分裂能力が低下したり、毛母細胞の数が減少します。これにより、十分な量のケラチン(毛髪のタンパク質)を生産できなくなり、一本の細い毛髪しか形成されなくなります。
④その他のメカニズム
毛周期の乱れ、一本毛化、毛母細胞の活性低下以外にもたくさんのメカニズムが絡み合ってFAGAは起こっていると言われており、以下それらを列挙いたします。
・血管・血流によるもの
- 毛包周囲の微小血管の収縮
- 血流低下による栄養供給の減少
- 毛包の萎縮を促進
・結合組織の変化
- 毛包周囲の線維化が進行
- コラーゲンの質的変化
- 毛包の再生能力が低下
・ 炎症性サイトカインの産生
- TNF-α、IL-1βなどの炎症性物質の増加
- 毛包周囲での慢性的な炎症状態
- 毛包の機能低下を促進
・酸化ストレスの増加
- 活性酸素種(ROS)の産生増加
- 毛包細胞のDNA損傷
- 細胞死の促進
・エストロゲンの影響
- 女性ホルモンの低下による保護作用の減少
- アンドロゲンの相対的な影響力の増加
- 毛包の萎縮を加速
・その他のホルモン(プロラクチン、甲状腺ホルモン、成長ホルモンなど)による影響
・遺伝子多型が原因となるもの
- アンドロゲン受容体遺伝子
- 5α-リダクターゼ遺伝子
- アロマターゼ遺伝子など
・エピジェネティクス的(後成遺伝学的)因子による影響
- 環境要因による遺伝子発現の調節
- DNA メチル化パターンの変化
- ヒストン修飾の変化
FAGAの重症度
実は、FAGAは重症度別に3つに分類することができます。
この分類するにはルードヴィッヒ分類(Ludwig分類、下記図)という薄毛の見た目の症状から進行度をⅠ型〜Ⅲ型で判定するものになります。
このルードヴィッヒ分類の重症度によって、次に解説する治療法を選択していくことになります。
▶︎FAGAの重症度分類(ルードヴィッヒ分類)についてのコラムはこちらから
FAGAの治療方法
ホームケア治療
FAGAの治療には、内服薬や外用薬が用いられます。内服薬には、女性ホルモンの分泌を促進する薬や、毛髪の成長を促進する薬などがあります。外用薬には、ミノキシジル・アデノシンなどの発毛促進剤があります。これらの薬は医師の診断のもと、適切な処方と使用が重要です。
▶︎ミノキシジルでのFAGA治療についてのコラムはこちらから
メソセラピー
メソセラピーは、頭皮に有効成分を直接注入する治療法です。髪を作る毛母細胞の活性化を促すミノキシジル・サイトカインを配合した薬液を、頭皮に細かく注入することで、毛髪の成長を毛母細胞から活性化し、薄毛の改善を目指します。メソセラピーは、薬物療法と併用することで、より効果が期待できる場合があります。
レーザー治療
レーザー治療は、毛根の細胞を刺激し、発毛を促進する治療法です。低出力レーザーを頭皮に照射することで、毛髪の成長を促進し、薄毛の改善を目指します。
植毛
植毛には、自身の毛髪を薄毛になっている部分へ移植する「自毛植毛」と、人工毛を使用する「人工毛植毛」の2種類があります。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあるため、自身の状況や希望に合った方法を選択することが重要です。ただ、人工毛の移植にはデメリットが多いと考えておりますので、もし植毛をされるとしたら自毛植毛で検討することをお勧めします。
ただ、女性の植毛に関しては2017年の男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインではC1と推奨度は低く、行ってもよい程度に留まっているので、植毛を検討されている患者様は注意が必要です。
FAGAとAGAの違い
男女での症状の違い
FAGAは全体的に薄毛になる傾向がありますが、AGAは特定の部位が薄くなるのが特徴です。AGAでは、頭頂部や前頭部が薄くなることが多いですが、FAGAでは頭頂部や分け目の毛髪が薄くなることが多いです。
発症時期の違い
AGAは若年層から発症することが多いですが、FAGAは主に中高年以降に見られます。しかし、近年では、若い女性でもFAGAを発症するケースが増えており、年齢に関係なく発症する可能性がある点は注意が必要です。
治療法の違い
AGAとFAGAでは、治療法も異なります。AGAには、男性ホルモンの働きを抑える薬や、発毛を促進する薬などが使用されます。一方、FAGAには、女性ホルモンの分泌を促進する薬や、毛髪の成長を促進する薬などが使用されます。またFAGAでは、メソセラピーなどが有効な場合があります。
FAGAに関するよくある質問
FAGAの治療期間はどのくらいですか?
FAGAの治療期間は個人差が大きいですが、通常6ヶ月から1年程度は必要です。FAGAの治療は、発毛を促進するだけでなく、薄毛の進行を抑制することも目的としています。そのため、効果を実感するには、ある程度の期間が必要です。
FAGAの治療は保険適用されますか?
FAGAの治療は、多くの場合、保険適用外になります。治療費はクリニックによって異なりますので、事前に確認が必要です。FAGAの治療には、薬剤費、治療費、診察料などが含まれます。
FAGAの治療は、専門医による適切な診断と治療が重要です。気になる症状がある場合は、早めに薄毛治療専門のクリニックを受診することをおすすめします。
記事監修
「神奈川・湘南・鎌倉・横浜の女性薄毛(FAGA)はルートへ」
院長 清水弘太郎
プロフィール
略歴
三重大学 医学部医学科卒業
桑名市総合医療センター 初期臨床研修 修了
三重大学病院 さいたま市立病院 形成外科 勤務
大手AGAクリニックA 勤務
大手AGAクリニックB 勤務
専門医・所属学会
日本毛髪科学協会 毛髪診断士
厚生労働省 麻酔科標榜医
日本形成外科学会 正会員