この記事のポイント
- 低用量ピル自体に髪を抜けさせる直接的な作用はない
- 服用中と中止後では抜け毛のメカニズムが異なる
- ピルの種類(世代)によって抜け毛リスクに差がある
- 中止後の抜け毛は多くの場合6〜12ヶ月で自然に回復する
- 6ヶ月以上改善しない場合はFAGAの可能性もあるため受診を
低用量ピルと抜け毛の関係|ピル自体が直接の原因ではない
低用量ピル(OC)を服用中、あるいは中止した後に「抜け毛が増えた」と感じる方は少なくありません。
低用量ピルの副作用として脱毛が報告されることがありますが、発現頻度は製剤により異なります。OC・LEPガイドライン(2020年版)を含む公的資料では、脱毛は頻度の低い副作用として位置付けられています。
ただし、ピルそのものに髪を抜けさせる作用があるわけではありません。ピルに含まれるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲスチン(合成黄体ホルモン)が体内のホルモンバランスを変化させ、その結果として抜け毛に影響を与える場合があるのです。
当院にも「ピルを飲み始めてから髪が薄くなった気がする」とご相談に来られる患者さまがいらっしゃいます。しかし、詳しくお話を伺うと、ピルだけが原因ではなく、仕事のストレスや食生活の乱れ、加齢によるホルモン変化など、複数の要因が重なっているケースがほとんどです。
重要なポイントは、ピル「服用中」と「中止後」では抜け毛が起こるメカニズムが異なるという点です。この違いを理解することで、適切な対策を選ぶことができます。以下では、それぞれの原因と具体的な対策について詳しく解説します。
参考:低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン(改訂版) – 日本産科婦人科学会
ピルの服用中に抜け毛が増える3つの原因

プロゲスチンの男性ホルモン様作用(アンドロゲン作用)
低用量ピルに含まれるプロゲスチン(合成黄体ホルモン)の中には、男性ホルモンに似た作用(アンドロゲン作用)を持つ種類があります。特に第一世代(ノルエチステロン)や第二世代(レボノルゲストレル)のピルはアンドロゲン作用が比較的強いとされています。
この作用が強く出ると、髪の毛が細くなる・パサつくなど髪質が変化し、生え際や頭頂部を中心に薄毛が進行する場合があります。これは男性型脱毛症(AGA)と似た抜け方で、ピルを長期間服用している方に見られることがあります。
男性ホルモンが過度に抑制される影響
ピルは体内の女性ホルモンを優位にすることで効果を発揮しますが、その結果、男性ホルモンの働きが必要以上に抑えられてしまうケースがあります。
女性の体内にも男性の10分の1〜20分の1程度の男性ホルモンが存在しており、実は髪の成長にも一定の役割を果たしています。ピルによって男性ホルモンが過度に抑制されると、このバランスが崩れ、頭髪の抜け毛が増えてしまうことがあるのです。
この原因は1つ目のアンドロゲン作用とは真逆のメカニズムである点がポイントです。同じピルの服用でも、体質やホルモンバランスによって「男性ホルモンが強まる方向」と「抑えられすぎる方向」の両方が起こりうるため、個人差が大きいのが特徴です。
ピルによる栄養吸収への影響
意外と知られていませんが、ピルの服用はビタミンやミネラルの体内での代謝にも影響を及ぼす可能性があります。Palmery Mらの研究(European Review for Medical and Pharmacological Sciences, 2013年)では、経口避妊薬の服用によって葉酸・ビタミンB6・ビタミンB12・ビタミンC・亜鉛・マグネシウム・セレンなどの血中レベルが低下する傾向が示されています。
これらの栄養素は、髪の主成分であるケラチンの合成や頭皮の血流維持に重要です。特に亜鉛とビタミンB群は髪の成長に欠かせない栄養素であり、不足すると抜け毛や髪の細毛化を招くことがあります。ピルを服用中の方は、意識して食事やサプリメントで補うことが大切です。
中止後に抜け毛が増える原因と回復までの目安
エストロゲン低下で起こる「休止期脱毛」とは
ピルの服用中は、含まれるエストロゲンの作用で髪の「成長期」が通常よりも長く維持されます。その結果、抜け毛が減り、髪のボリュームが保たれやすい状態になっています。
ところがピルの服用をやめると、それまで人工的に維持されていたエストロゲンの量が急激に低下します。すると、成長期にとどまっていた多くの髪の毛が一斉に「休止期」へ移行し、2〜3ヶ月後にまとまった量の抜け毛として現れます。これを医学的には「休止期脱毛(きゅうしきだつもう)」と呼びます。髪が「お休みモード」に入ってしまい、一気に抜け落ちてしまう現象とお考えください。
この現象は、出産後に女性ホルモンが急減して起こる「産後脱毛症」と同じメカニズムです。通常、髪全体の10〜15%程度が休止期にありますが、休止期脱毛では最大50%近くの髪が休止期に入ることもあるとされています。
参考:Telogen Effluvium: A Review – Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology(PMC)
回復までの期間はどのくらい?
ピル中止後の抜け毛は一時的なものであり、多くの場合は自然に回復します。以下が一般的な経過の目安です。
| 時期 | 状態 |
|---|---|
| 中止後1〜2ヶ月 | 体内のホルモンバランスが変化し始める |
| 中止後3〜6ヶ月 | 抜け毛がピークを迎える(1日200〜400本程度になることも) |
| 中止後6〜9ヶ月 | 抜け毛が徐々に減少し、新しい髪が生え始める |
| 中止後9〜12ヶ月 | 多くの方が元の毛量に近い状態まで回復 |
回復が遅れる可能性がある場合
- 鉄欠乏(血清フェリチン値が低い)がある
- 甲状腺機能に異常がある
- 家族に薄毛の方がいる(遺伝的素因)
- 強いストレスや栄養不足が続いている
中止後6ヶ月を過ぎても改善の兆しが見られない場合は、ピル以外の原因(FAGAなど)が隠れている可能性があります。自己判断で様子を見続けるのではなく、早めに婦人科や薄毛治療の専門クリニックにご相談ください。
ピルの種類(世代別)で抜け毛リスクは変わる
低用量ピルは、含まれるプロゲスチン(合成黄体ホルモン)の種類によって第一世代から第四世代に分類されます。抜け毛への影響を考えるうえで重要なのが、プロゲスチンが持つ「アンドロゲン作用」(男性ホルモンに似た働き)の強さです。
アンドロゲン作用が強いピルほど、髪が細くなったり抜け毛が増えたりするリスクが高まります。逆に、アンドロゲン作用が弱い、あるいは抗アンドロゲン作用(男性ホルモンの働きを抑える効果)を持つピルは、薄毛への影響が比較的少ないとされています。
| 世代 | プロゲスチンの種類 | アンドロゲン作用 | 抜け毛リスク | 代表的な薬剤名 |
|---|---|---|---|---|
| 第一世代 | ノルエチステロン | やや強い | やや高い | シンフェーズ、ルナベルなど |
| 第二世代 | レボノルゲストレル | 強い | 高い | トリキュラー、アンジュなど |
| 第三世代 | デソゲストレル | 弱い | 低い | マーベロン、ファボワールなど |
| 第四世代 | ドロスピレノン | 抗アンドロゲン作用あり | 最も低い | ヤーズ、ヤーズフレックスなど |
第三世代のデソゲストレルは、第一・第二世代と比べてアンドロゲン作用が大幅に抑えられており、ニキビや多毛症の改善にも用いられることがあります。第四世代のドロスピレノンは、男性ホルモンからではなく利尿ホルモンから合成されているため、男性化症状が起こりにくいのが特徴です。
ただし、ピルの選択は抜け毛リスクだけで判断するものではありません。避妊効果や月経困難症への効果、血栓症リスクなどを総合的に考慮する必要があります。現在服用中のピルで抜け毛が気になる場合は、自己判断で変更や中止をせず、まずは処方元の婦人科の主治医にご相談ください。
参考:低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン(改訂版) – 日本産科婦人科学会
ピルによる抜け毛と女性の薄毛(FAGA)の見分け方
びまん性脱毛症(FAGA)との違い
ピルが関係する抜け毛と、女性に多い薄毛の症状であるFAGA(女性男性型脱毛症)は、見た目が似ているため混同されやすい傾向があります。しかし、原因も経過も大きく異なるため、正しく見分けることが適切な対処の第一歩です。
| 項目 | ピルによる抜け毛(休止期脱毛) | FAGA(女性男性型脱毛症) |
|---|---|---|
| 主な原因 | ピルの服用開始・中止によるホルモン変動 | 加齢や遺伝による男性ホルモンの相対的な優位 |
| 発症のきっかけ | ピルの開始・変更・中止から2〜3ヶ月後 | 明確なきっかけがないまま徐々に進行 |
| 抜け方の特徴 | 頭部全体からまんべんなく抜ける | 分け目や頭頂部を中心に薄くなる |
| 進行の仕方 | 一時的に大量に抜け、その後落ち着く | ゆっくりと進行し、治療しなければ改善しない |
| 自然回復 | 多くの場合6〜12ヶ月で回復 | 自然回復しない(進行性) |
日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、女性の脱毛症の診断にあたって、慢性的な休止期脱毛・甲状腺疾患・貧血・急激なダイエットなどによる脱毛を除外することが重要とされています。つまり、「ピルのせいだろう」と自己判断せず、他の原因を一つずつ除外していくことが正確な診断につながります。
参考:男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版 – 日本皮膚科学会
セルフチェックリスト
「自分の抜け毛はピルの影響なのか、それともFAGAなのか」を判断するための目安として、以下のチェックリストをご活用ください。当てはまる項目が多いほど、FAGA(女性型脱毛症)の可能性が考えられます。
FAGAの可能性チェックリスト
- ピルの開始・変更・中止とは関係なく、徐々に髪が薄くなってきた
- 分け目が以前より広がっている、または頭頂部の地肌が目立つようになった
- 母親や祖母など、家族に薄毛の方がいる
- 抜け毛が半年以上続いており、改善の兆しがない
- 髪の毛1本1本が細く、ハリやコシがなくなってきた
- 40代以降で、更年期の症状(ほてり・イライラなど)もある
上記のうち3つ以上に当てはまる場合は、ピルの影響だけでなくFAGAが進行している可能性があります。
当院では、ピルの影響だと思って長期間様子を見ていた結果、実はFAGAが進行していたという患者さまを拝見することがあります。早期に専門の医師の診察を受けることで、治療の選択肢が広がります。
抜け毛が気になるときの5つの対策

婦人科の主治医にまず相談する
ピル服用中・中止後に抜け毛が気になった場合、最初に相談すべきはピルを処方している婦人科の主治医です。自己判断でピルの服用をやめたり、種類を変えたりすると、避妊効果の低下や月経トラブルなど別の問題を招く可能性があります。
婦人科では、抜け毛の状況に応じてピルの種類変更や休薬の検討をしてもらえます。また、血液検査で甲状腺機能や鉄欠乏の有無など、ピル以外の原因を調べることもできます。
抜け毛リスクの低いピルへの変更を検討する
前述のとおり、ピルの世代によってアンドロゲン作用(男性ホルモンに似た働き)の強さは異なります。現在、第一世代や第二世代のピルを服用していて抜け毛が気になる場合は、アンドロゲン作用の弱い第三世代(マーベロン、ファボワールなど)や、抗アンドロゲン作用を持つ第四世代(ヤーズ、ヤーズフレックスなど)への変更を婦人科の主治医に相談してみてください。
ただし、ピルの選択は抜け毛への影響だけでなく、避妊効果・月経困難症への有効性・血栓症リスクなどを総合的に判断する必要があります。必ず主治医と相談のうえ検討しましょう。
髪に必要な栄養素を意識して摂る
ピルの服用はビタミンB群・葉酸・亜鉛・マグネシウムなどの血中レベルを低下させる可能性があります。これらは髪の成長に欠かせない栄養素ですので、意識して食事から補うことが大切です。
| 栄養素 | 主な役割 | 多く含まれる食材 |
|---|---|---|
| たんぱく質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
| 亜鉛 | ケラチンの合成を助ける | 牡蠣、牛肉、ナッツ類 |
| ビタミンB6 | たんぱく質の代謝に関与 | バナナ、鶏肉、さつまいも |
| 葉酸 | 細胞の分裂・成長をサポート | ほうれん草、ブロッコリー、枝豆 |
| 鉄分 | 頭皮への酸素供給を支える | レバー、あさり、小松菜 |
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、成人女性のたんぱく質推奨量は1日50gです。無理なダイエットや偏った食事は避け、上記の栄養素をバランスよく摂取することを心がけてください。
頭皮ケアとヘアケアを見直す
抜け毛が増えている時期は、頭皮環境への配慮も重要です。以下のポイントを意識してみてください。
- シャンプーは低刺激のアミノ酸系を選ぶ:洗浄力が強すぎるシャンプーは頭皮の皮脂を過剰に奪い、乾燥やかゆみの原因になります
- ゴシゴシ洗わず、指の腹でやさしくマッサージするように洗う:頭皮の血行促進にもつながります
- ドライヤーは頭皮から20cm以上離して使う:熱によるダメージを避け、根元からしっかり乾かしましょう
- きつく結ぶヘアスタイルを避ける:ポニーテールやお団子ヘアなど、毛根に負担がかかる髪型は「牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)」を引き起こすことがあります
改善しない場合は薄毛治療の専門クリニックへ
婦人科でピルの変更や生活習慣の見直しを行っても、6ヶ月以上抜け毛が改善しない場合は、FAGAなど別の脱毛症が進行している可能性があります。その場合は、女性の薄毛治療を行う専門クリニックの受診をおすすめします。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、女性型脱毛症の治療としてミノキシジル外用薬が最も高い推奨度A(強く勧める)に評価されています。ミノキシジルは頭皮の血流を促進し、毛母細胞(髪を作る細胞)を活性化させることで発毛を促す薬です。
当院でも、ピルとの関係を含めた総合的な診察を行い、一人ひとりの原因に合わせた治療プランをご提案しています。「ピルのせいだと思っていたけど、実はFAGAだった」というケースは珍しくありません。気になる方は、まずは無料カウンセリングでお気軽にご相談ください。
参考:男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版 – 日本皮膚科学会
よくある質問
-
ピルの服用中に薄毛治療はできますか?
-
基本的に可能です。女性の薄毛治療で広く使われるミノキシジル外用薬は、ピルとの直接的な相互作用は報告されていません。ただし、ホルモンに作用する内服薬を併用する場合は影響が出る可能性があるため、ピルを服用中であることを必ず担当の医師に伝えてください。
-
ピルをやめたら抜け毛はいつ止まりますか?
-
個人差はありますが、中止後3〜6ヶ月でピークを迎え、9〜12ヶ月で自然に落ち着くケースが一般的です。1年以上改善しない場合や、分け目・頭頂部だけが薄くなっている場合は、FAGA等の可能性があるため医療機関への相談をおすすめします。
-
抜け毛が少ないピルの種類はありますか?
-
アンドロゲン作用の弱い第三世代(マーベロン、ファボワールなど)や、抗アンドロゲン作用を持つ第四世代(ヤーズなど)は、比較的抜け毛への影響が少ないとされています。ただし、最適なピルは体質や治療目的によって異なるため、変更は必ず婦人科の主治医とご相談ください。
まとめ
まとめ
- ピル自体に薄毛を引き起こす直接的な作用はない
- 服用中の抜け毛は、プロゲスチンのアンドロゲン作用や栄養吸収への影響が関係する
- 中止後の抜け毛は「休止期脱毛」であり、多くの場合6〜12ヶ月で自然に回復する
- ピルの世代(第一〜第四)によって抜け毛リスクは異なる
- 6ヶ月以上改善しない場合は、別の原因の可能性があるため受診を
低用量ピルによる抜け毛は、ピル自体が髪を抜けさせるのではなく、ホルモンバランスの変化が間接的に影響するものです。「服用中」と「中止後」ではメカニズムが異なり、対策も変わります。
抜け毛が気になったら、まずはピルを処方している婦人科の主治医に相談してください。ピルの変更や生活習慣の見直しで改善するケースも多くあります。それでも改善しない場合は、女性の薄毛治療を行う専門クリニックへの受診をおすすめします。