はじめに
女性の薄毛(FAGA)について調べていると、「一本毛化」このワードに行き着くことも珍しくありません。
しかし、そもそも髪の毛が健康な状態でどういう構造をしているのかを知らないと、薄毛になったとしても異常な状態というのに気づかない場合があります。
ですので今回は、一本毛化とは何なのか、正常な人と一本毛化が起こっている人では何が違うのかを詳しく解説していきます。
実は毛穴からは複数の毛が生えている?
髪は毛根の毛包というところから生えてきています。
ただこれは知らない人も結構多いのですが、実は正常な毛だと、1本の毛穴(毛包)から複数の毛髪(通常2〜4本)が生えています。これを毛包ユニットと呼びます。
毛包ユニットからは、主毛包(一次毛包)と副毛包(二次毛包)という2種類の毛が出ています。いかに主毛包(一次毛包)と副毛包(二次毛包)の違いをまとめました。
主毛包(一次毛包)
・毛包ユニット内で最も大きく、長い毛髪で、中心的な毛包
・胎児期に最初に形成される
・大きな毛球部と太い毛幹を持つ
・深く皮膚に埋め込まれている
・発達した脂腺と立毛筋を持つ
・主要な保護的・感覚的機能を持つ毛髪を生産
・体温調節に重要な役割を果たす
・皮膚の保護と外観に大きく寄与
・成長サイクルが副毛包よりも安定
・アンドロゲン(男性ホルモン)に高い感受性を持つ
・男性型脱毛症(AGA)や女性型脱毛症(FAGA)の主な標的となる
・AGAやFAGAで最初に影響を受ける
・徐々に小型化し、細い毛髪を生産するようになる
・最終的に休止期が延長し、脱毛につながる
副毛包(二次毛包)
・主毛包の周囲に位置する小さな毛包
・胎児期後期または出生後に形成される
・より細く、短い毛髪を生産する
・小さな毛球部と細い毛幹を持つ
・主毛包ほど深くは皮膚に埋め込まれていない
・小さな脂腺を持つが、通常立毛筋は持たない
・毛髪密度を増加させる
・主毛包を補完し、全体的な毛髪の外観を向上
・皮膚の保護機能を強化
・成長サイクルが主毛包よりも変動しやすい
・主毛包ほどではないが、ホルモンの影響を受ける
・主毛包が影響を受けた後に変化が現れることが多い
・主毛包の変化に続いて影響を受ける
・脱毛の進行とともに徐々に消失する
一本毛化とは何か
では、一本毛化はどういうことが起こっているのでしょうか。
一本毛化は一言で言うと先述の主毛包(一次毛包)のみが生えている状態になって、副毛包(二次毛包)が生えなくなり、一つの毛穴から髪の毛が1本しか生えなくなってしまう状況です。
FAGA・AGAなどの脱毛症では、髪の毛周期(ヘアサイクル)の成長期の短縮・休止期の延長が起こるようになり、同時に成長する毛髪の数が減少し、結果として一本の毛髪のみが観察されるようになります。この結果髪の密度が低下し、FAGA・AGAになると考えられています。
一本毛化と一般的な毛の見た目の違い
一本毛化の毛はマイクロスコープで観察すると、毛が1本しか生えていないだけでなく、かなり細い毛が目立つようになっています(下図参照)。これは成長期の短縮・休止期の延長が起こることにより、髪が十分に育たないことが原因と考えられます。
一本毛化の原因
一本毛化の原因には下記のようなものが挙げられます。
1. 毛包ユニットの構造変化
正常な状態では、1つの毛穴(毛包)から複数の毛髪(通常2〜4本)が生えています。これを毛包ユニットと呼びます。しかし、以下の要因により、この構造が変化します。
– ホルモンバランスの乱れ(特にDHTの増加)
– 遺伝的要因
– 加齢
これらの要因により、毛包ユニット内の副毛包(二次毛包)が徐々に退縮し、最終的には主毛包(一次毛包)のみが残ります。
特にホルモンバランスの乱れは、一本毛化の一番の原因です。女性ホルモンの分泌量が減少したり、男性ホルモンの分泌量が増加したりすると、一本毛化が起こります。特に、妊娠や出産、更年期など、ホルモンバランスが大きく変化する時期に一本毛化が発生しやすいと言われています。
2. 毛周期の変化
毛髪の成長サイクルは 成長期(アナジェン期)、退行期(カタジェン期)、休止期(テロジェン期)で構成されています。
FAGAなどの脱毛症では、成長期の短縮・休止期の延長が起こり、同時に成長する毛髪の数が減少し、結果として一本の毛髪のみが観察されるようになります。
3. 毛包の微小炎症
慢性的な微小炎症が毛包周辺で発生することがあります。この炎症により毛包の機能を低下したり、毛包を徐々に破壊されます。その結果として、健康な毛髪を生産する能力が失われ、一本の弱い毛髪のみが生えるようになります。
4. 毛乳頭の機能低下
毛乳頭は毛包の底部に位置し、毛髪の成長に必要な栄養を供給する重要な役割を果たします。FAGAなどでは:
– 毛乳頭の血管が減少
– 毛乳頭細胞の数が減少
– 成長因子の産生が低下
これらの変化により、毛乳頭が十分な栄養を供給できなくなり、結果として一本の細い毛髪しか生産できなくなります。
5. 毛母細胞の活性低下
毛母細胞は毛髪を形成する細胞です。脱毛が進行すると、毛母細胞の分裂能力が低下したり、毛母細胞の数が減少します。これにより、十分な量のケラチン(毛髪のタンパク質)を生産できなくなり、一本の細い毛髪しか形成されなくなります。
6. 毛包の小型化(ミニチュア化)
継続的なホルモンの影響や他の要因により、毛包全体が徐々に小さくなります。この過程で、毛包の深さが浅くなったり、毛包の直径が小さくなります。
結果として、毛包が生産できる毛髪の太さと数が減少し、最終的に一本の細い毛髪のみしか生産できなくなります。
これらの要因が複合的に作用することで、毛穴から一本の毛髪しか生えなくなる現象が引き起こされます。この状態は、FAGAを含む様々な脱毛症の進行段階を示す重要な指標となります。
7. 遺伝的要素
遺伝的な要因も、一本毛化に影響を与えていると考えられています。両親や祖父母が一本毛化になりやすい体質であった場合、その体質が遺伝する可能性があります。
一本毛化の治療方法
では一本毛化してしまった毛はどうしたらいいのでしょうか。これはFAGA・AGAの治療を行うことで改善する可能性があります。以下に、FAGA・AGAの治療法を列挙していきます。
1. 内服薬
ミノキシジル
- 作用機序: 血管拡張作用で毛包への血流を改善・毛母細胞の活性化により成長期を延長
- 効果: 毛髪の太さと密度を増加させ、脱毛の進行を遅らせる
- 注意点: 効果が現れるまで数ヶ月かかる。
▶︎ミノキシジルでのFAGA治療についてのコラムはこちらから
フィナステリド
- 作用機序: 5α還元酵素(5αリダクターゼ)を阻害し、DHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑制
- 使用方法: 経口薬(1mg/日)を服用
- 効果: 毛包の縮小を防ぎ、毛髪の成長を促進
- 注意点: 妊娠中の女性や妊娠の可能性がある女性には禁忌。副作用に注意
デュタステリド
- 作用機序: フィナステリドより強力な5α還元酵素阻害剤(Ⅰ型とⅡ型の両方を阻害)
- 使用方法: 経口薬(0.5mg/日)を服用
- 効果: フィナステリドより強力にDHT生成を抑制
- 注意点: 女性での使用は慎重に検討する必要がある
2. 外用薬
育毛剤
- 成分: ミノキシジル、アデノシン、センブリエキス、ビタミンE誘導体など
- 使用方法: 頭皮に直接塗布
- 効果: 毛包の環境を改善し、毛髪の成長を促進
- 注意点: 継続的な使用が必要。効果には個人差がある
3. 光線療法
低出力レーザー療法(LLLT)
- 作用機序: 特定波長の光が毛包細胞を刺激し、代謝を活性化
- 使用方法: 専用のヘルメットやコームを使用
- 効果: 毛髪の太さと密度を増加させる可能性
- 注意点: 効果の個人差が大きい。長期的な安全性データが限られている
4. 再生医療
PRP(多血小板血漿)療法
- 方法: 自己の血液から抽出したPRPを頭皮に注入
- 効果: 成長因子により毛包を活性化し、毛髪の成長を促進
- 注意点: 複数回の治療が必要。効果の持続性に個人差
幹細胞培養上清液治療(サイトカイン療法)
- 方法: 幹細胞培養上清液に含まれるサイトカインを頭皮に注入
- 効果: 毛包の再生と活性化を促進できる
5. 外科的治療
植毛
- 方法: 後頭部から健康な毛包を採取し、薄毛部分に移植
- 効果: 永続的な毛髪の回復が可能
- 注意点: 高コスト。適切な候補者の選択と熟練した医師が必要
6. 生活習慣の改善
栄養バランスの改善
- 方法: タンパク質、ビタミン、ミネラルを十分に摂取
- 効果: 毛髪の成長に必要な栄養素を補給
ストレス管理
- 方法: 瞑想、ヨガ、適度な運動など
- 効果: ストレスによる脱毛の進行を抑制
頭皮ケア
- 方法: 適切なシャンプーの選択、頭皮の清潔維持
- 効果: 毛包環境を改善し、毛髪の成長を促進
まとめ
一本毛化は多くのFAGAの患者様で見られる症状です。一本毛化は、適切な対処法を行うことで改善できる可能性が高いです。ただし、自己判断で治療を行うことは危険なため、不安な場合は医師に相談することをおすすめします。
記事監修
「神奈川・湘南・鎌倉の女性薄毛(FAGA)はルートへ」
院長 清水弘太郎
プロフィール
略歴
三重大学 医学部医学科卒業
桑名市総合医療センター 初期臨床研修 修了
三重大学病院 さいたま市立病院 形成外科 勤務
大手AGAクリニックA 勤務
大手AGAクリニックB 勤務
専門医・所属学会
日本毛髪科学協会 毛髪診断士
厚生労働省 麻酔科標榜医
日本形成外科学会 正会員